先日1冊の書籍を読みました。
ヘアスタイルという数字で示しにくい商品をつくっている美容師にとっても、規定(評価)の具体性が強まる「数字」というのは、なるほど少し居心地の悪い、なじみにくい要素かもしれません。
例えば国家試験。
美容師として「きれいに」「美しく」「左右均整をとって」「誰よりも上手に」巻き納めたいワインディング技術。
ただし一方で「20分以内に」「60本以上」数字で示される規定。
その両立に頭を悩ませた人も多いのではないでしょうか。
今回の記事では、スタイリストとしてのステージに立った(立っている)あなたに向けて。
ひとつひとつの技術力を評価されたアシスタント時代には求められなかった、数字。
その出し方、向き合い方について私の考えを示す記事をお届けしたいと思います。
「数字とか言われちゃうとちょっとなぁ・・・」
なんて思いがちなあなたにとっても、新しいきっかけのひとつにしてもらえる記事になるようまとめていきますので、是非最後までご覧ください。
◇数字は、こわいもの?
「客数はまあまあなんだけど、単価が低いんだよなあ。」
「トータルの売上は結構いいと思うけど、リピート率もうちょっと上げられないかなあ。」
あえて生々しい書き方をしましたが、スタイリストになろうとしている(すでになっている)あなたであれば身近に聞こえてくる、リアリティのある会話ではないでしょうか。
私たち美容師が手にするお給料が「数字」で規定されている以上、業績もまたどうしても「数字」で規定されます。
1ヶ月で締める業績、四半期、半期、通年で評価される業績・・・
さまざまだと思いますがいずれにしてもひとつひとつの技術を、「出来ている」と「出来ていない」、「○か×」で評価されていたアシスタント時代には求められなかった業績という数字。
やっぱりいざ向き合うとなると、面倒臭い、あるいは怖さのようなものを感じて目を背けたくなることもあるでしょうし、なんなら突出して「よかったほうの業績」だけをアピールしたくなるような気持ちになることもあるかもしれません。
でも冒頭示したような、
「客数はまあまあなんだけど、単価が低いんだよなあ。」
「トータルの売上は結構いいと思うけど、リピート率もうちょっと上げられないかなあ。」
そんな指摘も、どうでしょう。
「客数は100人目標に対して97人だからあと3人っていうところなんだけど、単価が8000円目標に対して6500円。¥1,500 低いんだよなあ。」
「トータルの売上は前期より5%上がっているからこの調子を続けてほしいんだけど、90日でのリピート率をあと7%上げられないかなあ。」
数字が入ってくれることによって自分がどんなことをどのくらい頑張ればいいのかより分かりやすくなることが理解できると思います。
そういう理解ができるようになると、業績という数字は実はあなたにとっての「伸びしろ」を教えてくれる唯一の情報だったりもするわけです。
まずは「数字を数字のままに見る」
そんな習慣を持つことをおすすめしたいと思います。
◇数字のおもしろさは、小学生までの知識が教えてくれる
「70」という数字と、「490」という数字。
パッとこの数字をくらべてみた時に、皆さんはどんなことを考えるでしょうか。
・490のほうが大きい(正解!)
・490=70の7倍だな(正解!)
・1:7だな(比で表す!おしゃれです!正解!)
他にもいろんな考えがあると思いますが、ほとんど多くの方がこの2つの数字が「違う数字」だと捉えてそれをもとにいろんなイメージを抱いていくのではないかと思います。
では、こんな視点はどうでしょうか。
「70」という数字と、「490」という数字。
「この2つの数字を掛け算だけで表現してみよう!」という視点。
たとえば、
「70」=2×35の掛け算。こんな調子。
→でももっと掛け算できる?(うん!いける!
=「2×5×7」(OK!)
同じように、
「490」=10×49
→もっと掛け算できる??
=「2×5×7×7」(OK!)
「2×5×7 (=70)」と、
「2×5×7×7 (=490)」。
うお!!!
「70」と「490」だとめちゃ別物感あったのに。
「2×5×7」と「2×5×7×7」
とたんに、親近感。
「同じ素数の掛け算どうし」なんて言い出したら、もう同じ数字では?!
なんていう視点。
とかく私たちがお付き合いをする業績というのは
「一定の期間を決めたなかで」
表されるものです。
そうだよ、そこだよ、そこなんだよ、そこがなんか突きつけられる感あるんだよー!
わかります。めちゃわかります。わかりすぎるくらいわかりますw。
合計するのはもちろん評価をする側の効率性もあってのことです。
ですが、たとえばこないだの水曜日。
その日に限ってお客様が2人しか来なかった、あなたにとっての不調日。
その1日だけとってきて
「あなたは1日に2人しかお客様こない美容師なんですね」
そんな評価をされないようにするためにも、この一定期間で業績とすることは仕方のないことだったりするのです。
繰り返しになりますが数字の大小よりも大切なのは、(視点と)向き合い方。
合計で示されている数字だからこそ、分解をしてみること。
「70」と「490」だとめちゃ別物感あったのに。
「2×5×7」と「2×5×7×7」になったら、あら。とたんに親近感。
「あともう1回7をかければよかったんだ!(同じになるんだ!)」に気づくこと。
これこそ、業績という数字に向き合う醍醐味。
ぜひ覚えていてほしいです。
◇まずは「数字こそお客様からの評価」だと言い切ってみる
お客様が美容師に向けてくださる評価は本当にさまざまです。
「技術が上手」
「いつもおしゃれにしていて期待感が持てる」
「笑顔が素敵」
「言葉遣いが丁寧」
「ぜひまた、これからもずっと、担当してほしい」
でも悲しいかな、それは数字で表すことができない、
「私のことどれくらい好き?」
「そりゃあ、これくらいだよ。」
「その、これくらいってどれくらい?」
って、「知るかー!」
そのくらいとりとめもない、実は(感情にもとづいた)感想に近いものです。
「数字で表せない(表さない)からこそ」感想には価値があるのですから、それはそれでそのままでいいと思うのです。(*余談ですが、口コミを星の「数」で表そうとするのなんて実はほんとナンセンス!だと思っています!!!)
でも今月あなたを指名してくれたお客様の数で表される【指名客数】という実績は、「あなたに髪をやってもらいたいと思ったお客様の【数】」です。
【指名客数】100人の美容師よりも150人の美容師さんのほうが、よりたくさんのお客様に髪をやってもらいたいと思ってもらえている美容師さんです。
書けば「何を当たり前のことを」と思われるかもしれませんが。
でも実際の現場ではその当たり前のこと、それ以上でもそれ以下でもない「事実」を教えてくれている数字に、(感想の要素を加えながら)妙な解釈や弁解を加えてしまうことがとても多いものです。
「技術が上手。」
「いつもおしゃれにしていて期待感が持てる。」
「笑顔が素敵。」
「言葉遣いが丁寧。」
「ぜひまた、これからもずっと、担当してほしい」は、感想。
*ちなみに、
「自分なりにやりました」
「次もまた来てくれるはずです」
「可愛くできたと思います!」は、あなたの感想。
(厳しいことを言いますが、、、業績を考えるときに1番よけておきたいものです)
「今日の売上が〇〇万円」
「今日は〇〇人のお客さまが自分を指名してくださった」
「今月はヘアケア商品を〇〇万円買っていただくことができた」が、評価。
どっちがどう、ではなく。
ごっちゃにしない。分ける。
繰り返しになりますが「数字を数字のままに見る」。これがとても大切だと思います。
◇数字の先で示せてこそ、個性。
ちょっと語弊がありますが。
「たかが数字、されど数字」。でもやっぱりそれでも「たかが数字」。
これが私の考えです。
締めなり決算が終われば、数字なんてまた「0」に戻してからの積み上げ。
その積み上げを何回繰り返していけるかもまた「数字」で評価はされますが、やっぱりそれでもその数字を天国まで持っていくことはできません。
極端な話ですが。
あと5年後も大谷翔平という野球選手を記憶している人は多くいると思いますが、あと5年後に2021年に大谷翔平選手が打ったホームランの数字を記憶している人がどのくらいいるでしょうか。
「バッターもやるし、ピッチャーもやる。」
大谷翔平選手が持つ、「二刀流」という個性。
今となっては多くの方が称賛しているところだと思いますが。
でももしバッターとして試合に出ても、三振ばっかり。
打率が「1割」にも満たなかったら。
ピッチャーとして試合に出ても、打たれてばっかり。
「1勝」もできなかったら。
「数字」が、出せなかったら。
「一生懸命トレーニングしているので!」
「二刀流が僕の個性なんで!」
という主張を監督やチームメートに理解してもらい、ファンに称賛してもらい続けることは難しい(どちらかひとつにしたらいいのでは?の声が上がる)のではないでしょうか。
とかく「数字」でコミュニケーションを図ると、
「数字がすべてなんですか?」
「ぼくの、私の個性は見てもらえないんですか?」
そんなふうに感じてしまう人も多いかもしれませんが。
あくまでも
「数字=あなたの伸び代が具体的に示されている情報」
「個性=数字を揃えた後でなお発揮されているあなたの魅力・能力」
まるでちがうもの。
比較をする対象ではないということ。
上手に数字と付き合いながら、それをコントロールする能力を身につけて(むしろその能力を期待できるから会社はあなたをスタイリストにするんだと思います)。
その上で、個性伸びやかにスタイリストとしてのステージを楽しんでいく、そんな順序がいいのではと私は思います。
◇私が考える、数字の上げ方
最後に、スタイリストとして20年間、サロンオーナーとして13年間。
向き合い続けてきた立場から、
「じゃあ数字を上げるためにはどうすればいいの?」
あえて答えてみたいと思います。
というかもう答えたつもりでいますが、改めて。
繰り返しになりますが、数字は、お客様からのたいせつな評価です。
ですが、ただの「情報」でしかありません。
でも、されどの、されど。
「自分の仕事の成果を高めていきたい!」
そう考えたときには、数字という情報ほど貴重な手がかりはありません。
(自分の体重を知らないでダイエットを始めようとする人はいないはず)
「正しく向き合う(感想無用!言い訳無用!)」
「気づくまで分解する」
「行動に表す」
この3つのステップを繰り返していく。
できればちょっと早めに繰り返していく。
これに尽きるのではないかと思います。
つまり、平たくいうと、、、能力の問題ではなく、
「するか、しないか」。
誰でもできるでしょうけど、「するか、しないか」。
だって、
やっぱり数字は、たがが数字ですから。
◇まとめ
ここまで「スタイリストになったら上手に付き合いたい数字のお話」というテーマで記事をお届けしましたが、いかがでしたでしょうか。
「たかが情報としての数字、恐るるに足らず!」
むしろ
「っしゃ、そうときたらどんどん数字持ってこい!かかってこい!」
くらいのマインドになっていただく、きっかけくらいにはなれたでしょうか。
もちろん数字と向き合っていく過程に潜んでいる厳しさは私も体験してきたことですし重々理解しています。
なかなか改善されない数字に心が折れそうになることも決して少なくないはずです。
ただアシスタントという過程を経て、これからはスタイリストになる。
それは今まで以上にお客様からの評価を、サロンを代表して受け止めていくステータスになるということでもあり。
考えようによっては、その厳しさに向き合う立場になれたということも、スタイリストとしての「勲章」のひとつなのではないかと私は思っています。
数字で表せないあなたの個性や魅力ってアピールしなくても、あなたが思っている以上に、あなたの上司や同僚はよく理解してくれているものです。
まずはあなたはこれでもかってくらい自分の数字に向き合って、お客様からより多くの評価を獲得できるスタイリストを目指されるといいのではないでしょうか。
私からの提案は3つ。
「正しく向き合う(感想無用!言い訳無用!)」
「気づくまで分解する」
「行動に表す」
大丈夫!
数字と向き合ったくらいでスタイリストとしてのあなたの個性はそんな簡単に消えやしない!
っていうお話でした。
◇
余談ですが、こんなご時世です。
SNSを通してサロンオーナーや違うサロンのスタイリストの知見に触れられるような交流を持ってみる。
同じテーマでどんな違う回答があるのか「自分で取りに行ってみる」なんてのも積極的でいいと思います。
このTOOL MAGAZINE にも年齢層幅広く、いろいろな立場で美容の仕事に関わっている方たちが記事を寄せてくれています。
ぜひ他のライターの記事もご覧いただき豊かな美容師ライフを育むきっかけにしてもらえれば嬉しいです。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
また来月の記事でお会いしましょう。
では。
2009年創業 hair design space i.chi.e (千葉県/浦安市)オーナースタイリスト
2021年で美容師としてのキャリア20年の節目を迎え、これまで以上に年代を超えた繋がりや貢献を実現できるきっかけを得たく寄稿させていただくこととしました。
一美容師の視点、一運営者の視点から有益な投稿をお届けしていきます。
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