「声色を変えて怒られる」
という表現は、今の美容室でも廃れてはいないのでしょうか。
私が美容室で働くようになった20年前は、
ことあるごとに、「こと」の重大さを伝えるために。
時に、「唐突に大きな声」で、
時に、「突き放すような冷たい声」で、
そして時には、「怒りを込めた声」で。
いろいろな「声色」にのせた指導を受けながら働く時代でした。
◇
1年目スタッフ合同でワインディングレッスンを受けた時のことです。
美容学校新卒生が5分で15〜20本巻いて見せるところ、1ヶ月前に大学から見習いで入った私は当時5、6本を巻き終わるのが精一杯。
「はい、外して。もう1回やるよ。」
「ちょっと、あなた。5分もあって10本も巻けていないの?」
「次巻けないんだったらもう今日は帰って。やらなくていいから。」
それまでの学生時代ほとんどと言っていいほど声色を変えて怒られることのなかった(単に要領がよかっただけですが)私にとって「怒られる」ことへの恐れは、美容師としてスタートを切っていく上でとても大きなハードルになっていきました。
◇
大学を卒業してから美容師の世界に飛び込むことを決めた20年前。
周囲の、
「え?なんで美容師? 自信あるの?」
「一般企業に就職しないの?もったいなくない?」
「本当に、いいの?」
全てを振り切って、
「いつかは自分でお店をやるんだ!」
その一点張りで飛び込んだ、、、
はず、なのに。
最初の挫折は、
就職して2ヶ月後。
その1年目スタッフ合同でワインディングレッスンを受けた後。
今思えば自分でも情けなくなるくらい、
「次巻けないんだったらもう帰っていいわ。あなた、やらなくていいから。」
心が折れた(ような気がした)次の日。
オーナーに、
「お話しさせてもらってもいいですか。。。」
「え、、、もう、、辞めるの?」
オーナーはもちろん、両親や友人ずいぶんと周囲を驚かせてしまいました。
◇
地元に帰りご夫婦で営まれている小さなサロンに(リハビリするかのように)アルバイトをさせていただいた時間があります。
この雰囲気なら大丈夫ではないかと勤め始めるのですが、ただ場所を変えただけで、私自身にはなんら成長がないのですから、訪れる日々はそう変わりません。
むしろ以前のサロンよりいっそう厳しく叱咤される日が続くことになりました。
それでも同じ尻尾の巻き方はできないと身体をサロンに運んでいたある日。
巻き終わったロッドにスティック(挿しピン)を挿していたところに、
「もういい。(私と)代わりなさい。」
手捌きの悪い私にオーナーから声をかけられ。
「あ、、、はい、。すみません。」
仕事を代わられた私は、思い改め。
それまでに使い終わっていたタオルの回収から洗濯をしようとバックヤードに下がろうとしていたのですが。
そこで、不意に。
「おいっ!!!!!!!!!」
「おまえさ、自分がうまくできないんだったらさ、」
「せめて、見てろよ!」
「俺は、外しているんじゃない。お前に見せるために。できるようになってもらうために代わっているんだ。それなのにそのお前がいなくなってどうするんだよ!」
◇
「怒られる」そこにどれだけ温かい真意が潜んでいたとしても。
「声色が違う」その表向きの事実だけでどうしても足がすくんでしまう。
結局そのアットホームなサロンでの勤務も3ヶ月ともたずにリタイアすることになりました。
「いつかは自分でお店をやるんだ!」の一点張りで飛び込んだ、、、
はず、だったのに。
半年もたたないうちに、2つのサロンで挫折。
美容師ではない「働き方(働き口)」が
頭をよぎらなかったといえば、嘘になります。
でも無職のまま帰る自宅に置き放してあるワインディングウィッグを見ると、おもむろに触り始めては、スライスをロッド幅にとってシェイプして、ペーパーを手に上巻きをしたくなっている自分も、確かにいました。
「おまえさ、自分がうまくできないんだったら、せめて、見てろよ!」
・・・。
「まずは、見ている。だけでもいい、ってことなのかな。」
「たとえ怒られても、【見よう。】その姿勢さえあれば次のサロンではちょっとだけでも前に進めるんじゃないかな。」
「3度目の正直」と、
「2度あることは3度ある」の、せめぎ合い。
3度目のサロンへの就職を決意したのはその年の、9月のことでした。
◇
「ここにも、、、やはり。いた・・・。」
3度目の就職先に選んだサロンでは、私のキャリア史上最も「おっかない」、恐怖しか覚えなかった店長からご指導を受けることになりました。
「逃げた先には追いかけてくるものがある。」
というのも、なるほど真理かもしれません。
それでも、2度の挫折を経た私は、
とにかく「見る」ことにしました。
「逃げちゃダメだ!」と思えば思うほど
逃げたくなっていたのに。
「見よう。とにかく見よう。」
と思えば、不思議とその場から逃げることはなくなりました。
もちろん、その後も激しい叱責がもれなくついてくる失敗は数え上げればキリがありませんでしたし、その場に立っていられないような気持ちになる失敗もたくさん経験しました。
でも、今の私の働き方は、あの時の、
「できないんだったら、せめて、見てろよ!!!」
に集約されている気がします。
キャリアを重ねた今では驚かれることもありますが、今だって上手にできないことが私にはたくさんあります。
これから先できるようになる時間も、あんまりたくさんはないかもしれません。
でもだからといって、
逃げ出したり諦めたりするようなことも、ほとんどありません。
だって、とりあえず。今日も。
今も。
見ているから。
できている人のことはいつも見ているし、いつか自分だってそんなふうに同じようにできるようになるんじゃないかと信じていたりします。
「働き方改革」という言葉で始まるディスカッション。
最近はとかく「ステータス」の視点で語られることが多いように感じますが。
ステータスが変わっても変わらないのは、
「働く」への、私の取り組み方。
いずれ、今選んでいるステータスが必要とされない時代になっても。
最後まで残り続けるのは、
「働く」への、私の取り組み方。
たまにはそんな視点を今の自分に向けてみるのも十分、働き方改革になるんじゃないかなという気持ちでしたためさせていただきました。
最後までご覧いただきありがとうございました。
読んでくださったあなたの働き方に、なにかしらのきっかけになれたらうれしいです。
Twitter で主に雑感、発信しています。よかったら遊びに来て見てください。
ではまた。
2009年創業 hair design space i.chi.e (千葉県/浦安市)オーナースタイリスト
2021年で美容師としてのキャリア20年の節目を迎え、これまで以上に年代を超えた繋がりや貢献を実現できるきっかけを得たく寄稿させていただくこととしました。
一美容師の視点、一運営者の視点から有益な投稿をお届けしていきます。
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