TOOL MAGAZINE編集長のくらたです。
「くらたって誰?」そんな方のために自己紹介作りました。
TOOL MAGAZINEってなに?という方はこちらをご覧ください。
美容師の価値とは
あまり私自身、技術のことについては触れることは意識的にしていませんでした。
なぜなら美容師という職業は技術を通してお客様に価値を提供する仕事だからです。
ざっくりすぎましたね。少し詳しく話をさせてください。
上記の概念は美容師がお客様からお金をいただく上での最低条件です。
別のもので例えてみればわかりやすいかもしれません。
ロングセラーと言われる商品、例えばコカコーラをあげてみましょう。
中身の製法は謎と言われる未知のドリンクですが、図でもわかるようにデザインは年々変化しています。
商品というものは常に時代やお客様のニーズに合わせて進化、変化を繰り返していくのが常識です。
(飲食店の場合”変化をしない”ということに価値がある場合もありますが)
では、私たち美容師は何が商品になるでしょうか?
そうです”私たち自身”ですね。
変化や進化をしない、もしくはしようとしない商品にはお客様は飽きてしまい、離れていくのがこの仕事です。
つまり、自分たち自身の商品価値を磨いていくことは美容師としての最低限の責務ということになり、それが出来ない美容師には商品価値がなくなっていくのがこの仕事でお金をもらうことができなくなってしまう、ということです。
少し話はずれますが、私たちTOOL MAGAZINEはその最低条件を前提とした上で
「技術を通した上でどんな価値を提供できるか?」
「美容師としての活動を様々なライフスタイルを送っている皆がどうしたら最大限発揮できるか」
ということを各々のライターの視点から発信しているコンテンツです。
共に仕事をした、というわけではありませんがライターでいらっしゃる方で美容師の方々はその前提があることを確信しています。
というわけで、今回はあえてその最低条件としているところにわざわざ踏み込んでみましょう。
特別、テクニカルな話ではありません。あくまで美容師の本質として必要な要素「技術とはなんなのか」についてお話しさせていただきます。
よろしければ最後までお付き合いください。
2階の美容室に飛び込んできたお客様の心境
まず先に少し私が勤める美容室の話をさせてください。
私が勤めるサロンは2階にあり、エレベーターか非常階段のみでの入り口しかありません。
そのため、”飛び込みのお客様”というのは非常に少なく、ネットであらかじめ情報をキャッチしてくれたお客様のご来店が9割9分です。
だって、2階以上の店舗というのは路面店のようにフロアの様子が見えにくく、フラッとは入るには勇気が入りますよね?
(だから1階テナントの方が賃料が高いのは知ってますよね)
そして、私たちが掲げるサロン名には〜再現性サロン〜というワードが入っています。
(お時間ある方はよろしければお読みください)
〜再現性サロン〜というのは(自社の人間が言うのもアレだけど)「私たちのサロンに来てくれたらこんなことができるようになりますよ」をお店単位で掲げたものです。
もちろん再現性に対する信念や取り組みはありますよ。カリキュラムやスタイリスト同士で勉強会開いたり…。
要はこの美容室にないしは、このスタイリストにお願いすれば「再現性」という価値がついてくることを突き詰めている、ということです。
説明はそれくらいにしておいて、そんな私たちの美容室に先日飛び込みのお客様がいらっしゃったのです。
その場ですぐにご案内をすることはできませんでしたが、後日私が担当させていただいたところ…。
最初の一言は「他店でパーマを失敗されてどうしていいかわからず、ずっと悩んでた」とのこと。
その方が前日に飛び込みでいらした方だったのは記憶していたので、その言葉を聞いてハッとしました。
「このお客様はどれほどの勇気を振り絞ってこの美容室にやってきたのだろう」と。
理由は先述した通りですが、「飛び込んで来たということは相応の理由があったのではないか?」と私は感じたのです。
さらに詳しく話を聞くと
「美容室に行ったのは1ヶ月ほど前だった」
「思い描いていたスタイルとは程遠いものでどうしていいかわからず、ずっとモヤモヤしていた」
「”再現性”と書いてあったのでもしかしたここならなんとかしてくれるのではないか」
話を聞くうちに、最初に感じた思いは確信に変わり、より強くなっていきました。
お客様がご来店を決めてくださるプロセスとは今回少し異なるのがわかるでしょうか。
本来のご来店を決めるまでの流れというのは、キャッチフレーズに共感し「ここなら(この人なら)なりたい自分になれるかも」というプロセスを辿ることが多いです。
要するに、未来のなりたい自分に対しての期待をここなら(この人なら)それが叶うかもという前向きなベクトルでお店を決めるわけです。
それに対し、今回担当したお客様の場合は「どうにもしようがない現状をここなら解決してくれるかも」という思いで私たちのサロンに飛び込んできてくれたのです。
過去(現在)の自分が嫌でどうしようもなく、ここなら(この人なら)それを解消してくれるかもという後ろ向きなベクトルでお店を決めてきてくれたわけです。
どうしてこれほどの勇気をお客様に使わせることになってしまったのか?とやり場のない気持ちが溢れてきました。
それと同時に、私たちの掲げるワードに期待をしてきてくださったこの方に「果たして応えることができるのか」というプレッシャーを感じたのを覚えています。
テクニカルな話をする回ではないので施術の内容の詳細は省きますが、結果的にはお客様に満足いただくことができました。
最後には「本当にここにきてよかった」というお言葉までいただくことができました。
とはいえ、やったことはいつもと変わりません、私が提供できるものを全力で提供しただけです。
多分ですが美容師としてやっていることはそこまで大きくは変わりません。では何がこれほどまで差になったのでしょうか。
技術の上手い下手ってなんだ
ここで言いたいのは、「私の技術がすごいだろ」とか、「前回の美容師さんがダメだ」とかを言いたいわけではないです。
今回のお客様に施術しながら考えていました、「技術の上手い下手ってなんだろう?」と。
皆さんはこの部分どのように考えますか?
結論から言えば「お客様が今日のデザインに納得しているか」と言うことです。
つまり、この美容師は上手い、下手だと判断するのはお客様なのです。
”セイムレイヤーが1mmの狂いもなくカットができること”でも
”ステップの残らないグラデーションボブが切れること”でも
”コンテストで優勝した経験があること”でもないのです。
極端なことを言ってしまえばハサミを初めて握った人でも、一言も話さなかった人でも、仮に私たちが下手だと感じる美容師だったとしても。
お客様が今日のデザインに満足してくれれば、そのお客様にとって上手い美容師になるわけです。
もちろん、足りないスキルがあればそれを下手だと感じるお客様もいるでしょうから全ての人には無理でしょう。
だから満足をどれだけ多くのお客様に提供できるか、そして長く上手いと感じていただけるか
そのために必要なのが、精巧なカット技術やデザインの引き出しの多さ、カウンセリングの丁寧さなどのスキルになるのです。
技術が上手いから「上手い美容師」ではないということです。
お客様が満足できる技術を提供でき、納得してもらえることで「上手い美容師」として見てもらえるようになるのです。
その日をデザインすること、だけじゃない
もう少し突っ込んでお話しさせてください。
「上手い美容師」と感じてもらえるポイントは美容室にいる時だけではありません。
今回のお客様がご来店されたきっかけはこの部分にあるのではないかと思います。
また美容室に行くまでの間スタイルがキープできたり、周りから褒められることが多かったり、アドバイス通りにやってみたら髪の状態がより良くなったり…。
私たちの手が届かない美容室の外で評価されるという側面があることも忘れてはいけません。
そもそもヘアデザインを提供する、というのは様々な技術を用いてお客様の髪の毛という素材を変化させることです。
どの技術をとってもお客様よりスキルも知識も上なのが美容師でないと商品価値はありません。
お店で食べる料理が家で作る料理より不味かったらわざわざお金払いたくないですもんね?
ヘアケアのアドバイスをしたり、パーソナルな似合わせを考えて新しい自分の発見をデザインしたり、どれもこれも美容室で提供できる全てのことがお客様が”自分では出来ないこと”を美容室にお金を払ってお願いをするわけです。
だから、私たちは髪に関してのプロでないといけないですし、当然お客様も「プロの人がデザインしてくれる」ということを思っているから成り立つ仕事です。
ちょっとややこしくなりましたね、話を先に進めましょう。
この前提がある上で美容師が持っていないといけないことがあります。
それは「誤魔化さない」ということです。
それはなぜか。
プロとはいえど、人間の手で作るものには”100%ミスがない”というのは不可能です。
ミスを最小限にすることはもちろん必要な義務ですが、絶対はありません。
誤魔化したかどうかは施術した本人が一番わかるはずです。
しかし、プロである私たちはサロンの仕上がりはいくらでも誤魔化すことができます。
(ちょっとパーマかかり過ぎたけどハンドブローで伸ばしちゃお)
(カット微妙だけど巻いてなんとかしちゃお)
なんて小手先で変化をつければなんとかなってしまいますし、
「あえて今日は暗めのカラーにしてあるんで色抜けでちょうど良くなりますよ」
「パーマ強めにしてますが落ち着いたらちょうど良くなりますよ」
言葉巧みに誘導することもできてしまいます。
結果、お客様は仮に満足をしたとしても翌日以降「なんか思ってたのと違う」と必ず感じます。
美容師がうやむやにしようとしてる気持ちがあればなおさら感じさせてしまうでしょう。
デザインする側の責任を果たす、というのはその日だけではないのです。
特に私たちの仕事は体の一部をデザインする仕事ですから、常に身について離れないパーツを扱うわけです。
気に入らないファッションをずっと身につけてなければいけないなんて嫌ですよね。
だから技術は誤魔化してはいけないんです。
先も言ったようにミスをしないというのはありえません。
大事なのは、ミスをしたこと素直に認めてやり直しをさせてもらうこと。
そして、ミスと感じるアンテナの感度を高く持つことが必要なのです。
誤魔化さない技術はお客様の信用を得ることができます。
信用は次またお会いできる時までちゃんと上手い美容師のままでいることができる条件です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
美容師の技術というのは人を感動させることも悲しませることもできるスキルです。
そして、美容師の技術の上手い下手を決めるのはお客様自身です。
デザインを提供する以上、責任を持たなければなりません。
責任を放棄した美容師はすべからく下手とお客様に思われます。
だからヘタクソは罪です。
厳しい記事になってしまいましたが、皆さんのふんどしを締め直すきっかけになれば幸いです。
上手な美容師を目指してやっていきましょう!
マガジン更新情報などお知らせしています。
よろしければTwitterフォローよろしくお願いします。
サロスクマガジン編集長
美容学生と美容師に取材を行っている
本職は美容師
コメント